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岡本太郎『自分の運命に楯を突け』を読みました

『自分の運命に楯を突け』を読みました。
太陽の塔で有名な芸術家、岡本太郎氏の本で、少し前にベストセラーになった『自分の中に毒を持て』の続編にあたります。さて、本書での著者の主張は一貫していて、「他人からの評価を気にするな」「リスクをとれ」「成功なんか目指すな」といったところでしょうか。こうしてまとめてしまうと何だか素朴で心もとない感じですが、著者の書く言葉には独特の力強さがあり、読者の心を高揚させます。この本は書かれた内容自体というよりも、岡本太郎の言葉に高揚させられる体験を売る本なのだと思います。同じ内容でも語る人によって自分の中に響くものが違いますよね。岡本さんの言葉は特に迷いの多い、若い世代に届きやすいんじゃないかと思われます。
元々1979年~1981年に雑誌の人生相談コーナーで連載されたQ&Aを編集して書籍の形にしたものなので、30年以上前に書かれたものなのですが、編集の力もあって、承認欲求や功利主義、虚無感が広がる現代に対する鋭い言葉に溢れている本に仕上がっています。

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さて、「芸術はバクハツだ」などの発言をメディアが面白おかしく切り取ったこともあって、奇人・変人のイメージが強い岡本氏ですが、本書『自分の運命に楯を突け』および『自分の中に毒を持て』を読んでみると、それもある一貫した思想に基づいた行動であったことが浮き彫りになってきます。どちらの本にも著者の自伝的なパートがあるのですが、小学生の頃から独立した個を発達させていて、当時の不合理な教師に反抗を繰り返して転向を1年生の間だけで4度もしたことから始まって、著者自身が自分の信じたことだけをやろうと固く決心していることが書かれています。さらに18歳で画家になろうとパリに渡った著者ですが、当地に溶け込まないとならないとの考えから、フランス語を習得してソルボンヌ大学に入学し、社会学・哲学・人類学を勉強しています。現地の人達と対等に「人間同士として」付き合い、哲学者ジョルジュ・バタイユと親友となったり、多くの女性と恋愛をしたりと、まさにパリに溶け込んで多くのものを吸収しています。僕の通っている大学からも海外の大学に留学していく人達がいますが、その人達に聞いてみても、現地語で大学の授業を受けることはかなりハードルが高く、ヨーロッパの人と対等に会話することもかなり難しいそうです。そのことを踏まえると岡本氏は実はかなりのインテリなんですね。
このようにして、第二次世界大戦のため日本に帰国してからの岡本氏は、それからも「人間全体として生きること」をそれまで通り実践していきます。その過程でTVなどに出ることもあったようですが、公共の電波を通してコミュニケーションできる(はがき等で反響があった)ということを「友達になれた」と表現し、芸術の本質であると見なします。絵画に法外な値段がついたりして一部の人間の占有物になっていることに異を唱えて、自分の作品を売らず、公共のスペースに設置するなどの行動をしていた岡本氏にとって、マスコミュニケーションは新しい芸術のプラットフォームに思えたのでしょう。

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さてこの「友達」概念、現代のFacebookにおける友達概念に似ていると思います。浅い人間関係だと批判も多いSNSの友達概念ですが、岡本氏が存命だったら意外に積極的に使っていたのではないでしょうか?僕らの住むネット社会はバクハツの可能性を秘めているかもしれませんね。

参考文献:『自分の運命に楯を突け』 岡本太郎著 青春出版社
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