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『タタール人の砂漠』を読みました

『タタール人の砂漠』を読みました。
イタリアのカフカことブッツィアーティの作品です。岩波文庫から出ております。とても面白いので実際に読んでみて欲しいなーと思います。さて、テーマを僕なりにザックリ要約してみると、「人生これから新しいことが起こって変化があり、本番が始まるんだ、と思っている間に人は年をとって死んでしまうのだ」というところでしょうか。暗いですね。でもこの暗いテーマを扱いながらも秀逸な描写で読者を引き込み最後まで読ませてしまいます。
この作品でのテーマの扱われ方を僕の私生活に応用してみたいと思います。

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この作品では物語の舞台がある要塞になっており、全編通してほとんどそこから動くことはありません。それならその要塞はよほど忙しかったり、魅力的だったりするのかというと、全くそんなことはなく、むしろ主人公は、赴任して即異動したいと上官に直訴するほど退屈でさびれた場所なのです。しかし、数ヶ月いる間に要塞の空気に影響され、次第に要塞に居続けることにこだわるようになり、いつしか古株になっていきます。さて、この間、主人公が夢見ているのは、要塞の向こうに広がる砂漠から伝説的なタタール人が攻めて来て、武勲をあげることでした。ここまでを抽象化すると、単調な人生を過ごしていても、これから何か劇的な出来事が起こって本当の人生が始まると信じて、現状を変えようとしない姿といえるでしょうか。
僕の勤めているアルバイト先の書店も経営が苦しいらしく、人員を削減したり社員からの締め付けが厳しくなったりと、労働条件は年々悪くなっているように感じるのですが、なぜか店に自分がどれだけ貢献しているのかを誇っていつまでも残っているアルバイト古株組がいます。かくいう僕は店で一番の古株なんですが、ブラック化する店に愛想が尽きて惰性で週1のシフトを続けているだけの状態になっています・・もちろん辞める人も増えていますが、残っている人の傾向を見てみると、やっぱり生真面目で他人から褒められることをアイデンティティの拠り所にしている人・真面目にやっていれば報われるはずだと信じている人が多い気がしますね。かつての僕もそういう下積み原理主義的な考え方を持っていました。有給を消化しないでほしい、とか労働基準法に反している提案をする店長に対して、「そこは店長の都合で」とご機嫌をとる古株アルバイターを見ると、この『タタール人の砂漠』や『不思議の国のアリス』などを思い出して、狂気の世界にさまよいこんだのかと思ってしまいます。いや、そもそも現実も狂気にあふれているのかもしれません。人は合理的判断のみである場所にとどまるにあらず。不合理なある種マゾヒスティックかつ夢見がちな動機でひとつの場所にこだわることがあるのだと思い知らされました。はっきり言って人生は不条理でありかつ何もない。このことを正確に書いている『タタール人の砂漠』は確かにイタリアのカフカと呼ぶに相応しい作品だと思います。

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本当の芸術というのは、人生に何もないことをわれわれに思い知らせる作品だ、と三島由紀夫も書いていましたが、その観点から『タタール人の砂漠』はとても優れた作品といえるでしょう。

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