SSブログ

庵野秀明『パラノ・エヴァンゲリオン』

『パラノ・エヴァンゲリオン』
パラノエヴァンゲリオン.jpg
1995年~1996年の、TVシリーズ全26話放送終了直後になされた、庵野秀明監督とメインスタッフに対するロングインタビューをまとめた本です。もう一冊の『スキゾ・エヴァンゲリオン』とセットになっています(こちらも近日まとめをアップ予定)。
現在新劇場版エヴァが制作進行中ですが、この本はTVシリーズ終了と旧劇場版公開の前の間の期間に作られています。現在庵野秀明監督が54歳ですから当時は37歳です(若い!)インタビューの雰囲気も90年代っぽさが出ていて当時を知る人にとっては懐かしい一冊かもしれません。

↓本書の構成です。
第一部 庵野秀明ロングインタビュー
第壱章 もう、僕は勉強しない
第弐章 ダイコンフィルム誕生
第参章 エヴァへの長い道
第四章 絶望は思うんだけど、そこからスタートです

第二部 『エヴァンゲリオン』スタッフによる庵野秀明〝欠席裁判″(後編)

第三部 私とエヴァンゲリオン

以下に一部および二部の内容をザックリ要約してみたいと思います。(三部は著者によるエヴァのたとえ話なのでカット)

スポンサードリンク



第一部 庵野秀明ロングインタビュー
第壱章 もう、僕は勉強しない
ファンの批評について…一般のファンは表層的な方法論でしか語れない。同じ作り手・表現者の方が良い批評をする。(庵野秀明を分裂病と書いた)野火ノビタの批評良かった。
故郷…山口県宇部市。ド田舎。中学生までは学級委員をやったりと優等生だった。
家族…両親と7つ下の妹。兄弟関係は希薄。家は貧しかった。
最初に観た映画…爆発のシーンだけ覚えてる。
怪獣とヒーロー…ゴジラもガメラも仮面ライダーもそれなり。ウルトラマンは『帰ってきたウルトラマン』がグー。
宇宙戦艦ヤマト…家の白黒TVで観た
もうぼくは勉強しない…地元で一番の進学校・宇部高にギリギリで受かる。入学式の時に「もう勉強なんかしない」と誓う。
76年~77年のヤマトブーム…『OUT』創刊二号のヤマト特集に衝撃を受ける。アニメファンが市民権を得たという感覚が初めてあった。しかし、劇場版では「こんなに周りに人がいるともういいや」と冷めてしまう。さらに続編『さらば宇宙戦艦ヤマト』では物語的に必然性のない特攻をする場面に笑っている。周囲は泣いていた。
高校時代…美術部の部長になって8ミリ映画を撮っていた。カメラはそれまで貯めた金をはたいて手に入れた。最初のアニメは大失敗。その後『ナカムライダー』というヒーロー物実写を文化祭でやって受けた。勉強は本当にせずマージャンにはまる。

第弐章 ダイコンフィルム誕生
※ダイコンフィルムとは…1981年~1985年にかけて活動した自主映画の製作集団。後にエヴァをつくる会社『ガイナックス』の母体になる。
大学入試…現役時代は国立の教育学部を受験するが失敗。1年間遊ぶ。浪人2年目に親から「どこでもいいから入れ」と言われ、実技試験のみの大阪芸術大学に合格した。試験対策は宮崎駿監督の絵コンテを見て「こんな感じでやればいいのか」という程度だったが、後に教授に聞いたところでは、庵野氏の答案はかなり優秀だった。大学に入ってよかったことは後にダイコンフィルムやガイナックスの中心メンバーになる人達と出会えたこと。
大学時代…非常に優秀だった学生時代に作ったフィルムは今では伝説となっている。しかし学外での制作がどんどん忙しくなり、大学は放校処分。
ガンダムとの出会い…ガンダム放映開始と同時に衝撃を受ける。「ロボットもののエポック。グーでしたね」当時高価だったビデオデッキが家になかったため、テープを買うかわりに店のデッキを貸せという契約を電気屋と結んで録画した。
ウルトラマンシリーズ…特撮技術にプロ並みのこだわりを施しながら、ウルトラマンはウィンドブレーカーにペイントしただけの庵野氏というウルトラマンの8ミリを撮り始める。これはシリーズで3作になった。
ダイコン3・4…岡田斗司夫らと関わりダイコン3・4でアニメを制作した。大学の同じ寮で友人の山賀博之は『マクロス』の現場を手伝ってプロの手法を学んできたという。元々イベントが終われば解散する予定だったダイコン3を恒常化してできたのがダイコンフィルムである。
決別…ダイコンフィルムで『ウルトラマン』を制作している時に行き詰まりがあった。庵野氏の責任問題が発生し、監督してきたウルトラマンの企画を取り上げられるということがあり深く傷つく。そんなグループはいやだと、東京へマクロスを手伝いに行った。

第参章 エヴァへの長い道
板野一郎…スタジオぬえでマクロスの手伝いをする間、板野一郎に出会い影響を受ける。庵野氏が「師匠」と言うのはこの板野氏ともう一人宮崎駿監督だけである。
宮崎駿…ダイコン4が終わった頃には、大学を放校処分になっていた。そこで、ダイコン4で描いた原画をカバン一つにつめてトップクラフトの宮崎駿監督のもとを訪れる。結果、庵野氏の実力を認めた宮崎監督によって『風の谷のナウシカ』における巨神兵のシーンの原画として大抜擢される。(普通、動画で経験を積んだ後に原画を担当する。上京したばかり、初参加の庵野氏が原画を担当するのは常識ではありえなかった)当時、家がなかったのでトップクラフトに寝泊まりした。本書刊行当時でも東京に借りたアパートには年数回しか帰っていないという。(さすがに2014現在では既婚なので家に帰っているのだろう…)
庵野氏は宮崎監督を第二の師匠。すごい人と話す。
高畑勲…その後『火垂るの墓』の現場に参加。船を資料に基づいてリアリティを追及して描いたのに、編集で黒く塗りつぶされていた。
ガイナックス結成…ダイコン時代の仲間が中心になってガイナックスが作られる。『王立宇宙軍・オネアミスの翼』の製作に参加し、伝説となっている有名なロケット発射シーンを手掛ける。
フーテン…『王立』が終わったら解散という話だったガイナックスが解散しないため距離を置き、フーテン生活をしていた。
『トップをねらえ!』…ガイナックスに戻って監督した。初の商業監督作品。ヒットした。
『ふしぎの海のナデァイア』…NHKで放送した。ヒットしたが孫請け状態だった会社は赤字だった。
『蒼きウル』…エヴァの前に山賀氏が監督となって立ち上がった企画だが凍結されてしまった。ここで「自分でやるしかないんだ」と『エヴァ』へと動くことになる。

第四章 絶望は思うんだけど、そこからがスタートです
綾波レイ…庵野氏の深層心理に一番近い。自分としては全然思い入れがなく、途中存在を忘れていた。7話には思い出して1シーン、レイのカットを足したことも。
孤独感…孤独感はあまり感じていなかったが、人間に興味がなかった。動物も植物も嫌いで肉や魚も食べない。
人間ドラマ…人間ドラマなんてそう簡単に描けるものではない。自分にも全然できていないという意識がある。フィクションで描くのは才能が足りないのでエヴァのキャラクターにはすべて自分が投影されている。その意味でエヴァはノンフィクション・ドキュメンタリーに近い。
ヒットについて…「あたるアニメはない。あたったアニメがあるだけ」。エヴァもまぐれ当たりだと考えている。利益は頑張ってくれたスタッフにできるだけ還元している。そうすることで、賃金体系など問題が多いアニメ業界を変えていきたいと考えているが、エヴァは特殊事例と思われ「ガイナックスは金をばらまいている」など心無い批判も出ている。
恋愛…自分は好きな女にはフラれるタイプ。女性に母親を求めてしまう。心の穴が大きいので恋愛だけでは埋まらない。結婚した人は「薄まってしまう」と考えている。創作は「飢え」である。
発言…最近色々な人から誹謗中傷を受ける。自分が幸せならそれでもいいが、自分は幸せを感じていない。成功した気分も味わっていない。幸福でなく、現実感がない。庵野氏自身が他人を批判する時は自己批判の側面もあるが、わざとそれが分からないように話すので妬まれたりする。
エヴァTV最終26話の画面がピキーっと割れてキャラクター全員がパチパチ拍手して主人公を祝福するというラストは、どうしてそうなったかという一番の理由は言うつもりがない。誰にも核心は話さず「…まあ、その部分は僕と一緒に墓の中ですね」

スポンサードリンク



第二部『エヴァンゲリオン』スタッフによる庵野秀明“欠席裁判”(後編)
出席者
大月俊倫“スターチャイルド”レーベル・プロデューサー
貞本義行『エヴァンゲリオン』キャラクターデザイン・漫画家
佐藤裕紀 ガイナックス広報部長
鶴巻和哉 TV版『エヴァンゲリオン』副監督
摩砂雪 TV版『エヴァンゲリオン』副監督

なぜ主人公は男なのか…最初、庵野監督は主人公を女にすることにこだわっていた。まさかあんなに女々しい男になるとは思わなかったが、村上龍の『愛と幻想のファシズム』に影響されたのではないか?

「逃げちゃダメだ」について…庵野監督の当時の心情が説明なしに入り込んでしまっている。

父親と母親(1)…最終2話について、最後の引き出しを開けていて、次を考えない・普通ではできない作り方で、他の人間ならもっと楽な道を選ぶ。一方、父と子の葛藤というテーマは描き切れていない。

父親と母親(2)…庵野氏は当時流行っていた、男性にとって都合のよい女性が母親的に接してくれるという作品が「気に入らん」と話、父性的な話をやりたかったが、ゲンドウが人間になっておらず、父性の欠如した作品になってしまった。

父親と母親(3)…エヴァを観ていると実は母親との葛藤の方が大きいと思われる。インタビューでは母親について一切語らなかった。

父親と母親(4)…庵野氏らの世代から美少女しか描きたくないという人が出始めた。業界的には美少女を主人公にするのは営業的な側面も大きいが…

父親と母親(5)…第20話のサルベージの回の解釈では意見が分かれる。

庵野秀明は「変われる」のか?(1)…庵野氏は変わらなきゃいけないという強迫観念があるが、一方でそんなに変わるつもりがないのでは?頭の中で考えるだけで現実の自分を変えるつもりがないので最終回のような極端な観念劇が出てくるのでは?

庵野秀明は「変われる」のか?(2)…庵野氏は太宰治的な人間。絶対変わらない・自閉はだめだと言いながら自閉じ向かっている。
最終回の自己啓発的な展開は、夜中に部屋に訪れた庵野氏に貞本氏が話したところ、そのまま素直に作品に出してしまった?

シンジはなぜ乗ったか?(1)…シンジがエヴァに乗る理由づけは完全には成功していない。怪我をしたレイが登場する必然性もなく、「男だったらここで乗る」という場面演出のためである。1話は非常に高いテンションであり、摩砂雪氏は本当にこのまま最後まで行けるのか?と危惧していた。

シンジはなぜ乗ったか?(2)…ガンダムの1話を仔細に分析した庵野氏はこれは絶対に越えられないと話していたという。

綾波レイの微笑み…6話でレイが笑うコンテが出来た時点で庵野氏はエヴァは成功だ、と睨んでいた。その後レイが死んでリセットされたり、シンジがエヴァに乗ることを拒否して再度乗る展開が繰り返されたりと、エヴァは反復の物語である。

最終二話について…25話ができた時点では「俺って天才」と言っていた庵野氏だが、放映後は「なんでこんな変なものを俺は作ったんだ」となっていた。
出演声優にとってもエヴァは特別な作品であり、25回の脚本を読んで泣いていたり、いまだに冷静に振り返れない作品だと話したりしている。

オタク批判…庵野氏はエヴァンゲリオンの成功によって神格化されている節がある。身近なスタッフは庵野氏はそういう人間でないと感じている。

自殺願望…たびたび自殺願望を口にする庵野氏だが、スタッフはまともに相手にしない。「絶対に自分で死ねない人間」だと確信している。

最後に…庵野氏の笑えるエピソード・バカ話をしながら仕事をする姿などが暴露される。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。